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<がんの消滅>がん細胞がぷちぷち壊れていく/「光免疫療法」発見の瞬間 - シバケン

2023/09/28 (Thu) 22:34:46

がん対策の最前線<?>

>2020年9月、厚生労働省から正式に承認を受け、楽天メディカルが普及に尽力中の光免疫療法。およそ9割のがんに効く治療法であると期待されている。がんという複雑怪奇な病に立ち向かう、この治療法はいったいどうやって生まれたのだろうか。『がんの消滅:天才医師が挑む光免疫療法』 (芹澤健介[著]/小林久隆[医療監修]、新潮新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。


>始まりは、がんを「治療する」ための研究ではなかった?
>2009年5月、米国メリーランド州ベセスダ。ワシントンD.C.のすぐ北西に隣接するその町に、アメリカ最大の医学研究機関、米国国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)はある。そのNIHの主任研究員、小林久隆の実験室で奇妙な現象が起きていた。


>――がん細胞がぷちぷち壊れていく。

>当時、小林が取り組んでいたのは「がんの分子イメージング」である。

>医学における〈イメージング〉とは人体内部の構造などを解析、診断するために画像化すること。「がんの分子イメージング」とは、つまりがんを可視化する研究だ。がんを「治療する」ための研究ではない。ましてやがん細胞を破壊するなどということが目的ではない。

>がん細胞の表面には他の正常細胞にはないタンパク質が多数、分布している。がん細胞を移植されたマウスの体組織内に、このタンパク質とだけ(特異的に)結合する物質を送り込んでやれば、がん細胞にだけその物質がくっつくことになる。

>この物質に蛍光物質をつけてやればどうなるか。がん細胞だけを光らせることができる。外科手術の際は、その光っている部分、がん細胞だけを取り除くことが可能になるし、取り残しも防げる。簡単に言えば、当時の小林が取り組んでいた研究のひとつはそうしたものだった。

>その日、朝から試していたのは〈IR700〉という光感受性物質だった。光に当たると化学反応を起こして発光する物質である。IRはInfrared=赤外線の略だ。700nm(ナノメートル)付近の波長の光に反応するからIR700と名づけられた。

>700nmの光とは、テレビの赤外線リモコンでも使われるような無害安全な種類の光である。紫外線のような波長の短い光だと細胞を傷つけてしまう恐れがある。そのために選ばれた可視光に近い近赤外線である。


>その光を何度がん細胞に当ててもうまく光らない。

>マウスのがん細胞と試薬はちゃんと結合しているはずだった。だが、きれいに光らない。がん細胞が仄かに発光はするのだが、際立った反応を見せることもなく、そのまま暗くなってしまう。明らかにほかの試薬とは違う反応だった。実験は失敗に見えた。

>「またダメだ……」

>「どうしてなんだろう」続く、実験現場の奇妙な現象
>実験に当たっていた小川美香子(現北海道大学大学院薬学研究院教授)は、蛍光顕微鏡のモニターを見つめていたその時のことをよく覚えていた。小川は京都大学薬学部出身。浜松医大の助教職から2年間という期限で小林のもとに留学していた。

>小川の研究テーマもまた「がんの分子イメージング」だ。自他ともに認める〝化学屋〟で、実験の精度や手順には定評がある。実際、NIHでも優秀な博士研究員(フェロー)に与えられる賞を受賞していた。

>「どうしてなんだろう」

>がん細胞と結合させる試薬によって、がんの光り方や明るさも変わる。リストアップした試薬を片っ端から実験し、その差異をデータとしてまとめるのが小川の仕事だった。

>東京慈恵会医科大学の大学院からNIHに来たばかりの光永眞人(現慈恵医大医学部講師)も戸惑いながらモニターを見つめていた。

>帰国を控えた小川から実験を引き継いでいる光永の役割は記録用に撮影データを残すことだった。当時を振り返って光永は言う。

>「パッと光を当てれば、ほかの色素はだいたいこちらの予想通りに光ってくれました。近赤外線の強さや露光時間を計算してやると、がん細胞がどのくらい光って、何秒後には消えていくというパターンがある程度は分かっていたんです。ですが、IR700の場合はがん細胞の光り方も違っていて、近赤外線を当てた後、顕微鏡の視野が急激に暗くなっていきました」

>この2年で小川はすでに200近くの蛍光物質を試している。近赤外線を当てたとたん、その光エネルギーに反応してモニター内でがん細胞が鮮やかな緑色に光ればそれは「よい試薬」だ。

>しかし、リストの最後の方にあったこのIR700は、何度実験を繰り返してもきれいに光らせることができなかった。ぼんやりと光るには光っても、その淡い光はすぐ消え、顕微鏡の視野が暗くなる。その繰り返しだった。

>IR700の大元は、道路標識や東海道・山陽新幹線の車体のあの青色の塗料
そもそも、このIR700の実験を小川が後回しにしていたのにはわけがある。

>「小林先生には前々からやってみてと言われていたんですけどね」と小川は言う。

>「〝化学屋〟の私としては、IR700の化学式があまり素敵な形じゃないなあと思っていたんです」

>理系の研究者はしばしば自分の専門分野を伝える際にこうした言い回しをする。〝物理屋〟〝化学屋〟〝数学屋〟などだ。それはともかく、小川のような薬学の専門家の目からはIR700という物質はそう見えたらしい。

>「化学式を見るとわかるんですが、この試薬はもともとは水に溶けにくいフタロシアニンという色素を水溶性にするために、スルホ基を上下につけているんです」

>スルホ基とはスルホン酸の陰イオン部分で、水によく溶ける。スルホン酸自体は硫酸に匹敵する強い酸なのだが、このスルホ基の性質を利用して、染料や界面活性剤など水に溶けていないと使えない有機化合物を合成する際に使われる。

>「実験の素材としては非常に扱いにくそうな化合物だったんですね。なので、正直なところ、ほったらかしにしていたんです。でも、そろそろ留学期間も残りわずかだし、小林先生にもお尻を叩かれていたので、ちょっとやってみようかと」

>フタロシアニンは光や熱に強い性質を持つ色素である。道路標識や東海道・山陽新幹線の車体のあの青色の塗料に使われている。これを水溶性にしたIR700は小林が以前から懇意にしていた小さな化学メーカーが売り込んできた。この物質が気になった小林はメーカーと調整を重ね、実験や治療に使えるよう仕立てていたのだ。


>そのIR700の実験がうまくいかない。

>それどころか、がん細胞は死んでしまっているようだった。死んだがん細胞を特定できたところで画像診断としては意味がない。生きたがん細胞を光らせてこそ、治療に役立つのだから。


>ぷちぷち割れる…光免疫療法の「発見」
>急いで倍率を上げてよくよく観察してみると、がん細胞がどんどん壊れているように見えた。まるで水風船が割れるように、あるいは焼いた餅が膨らむように、がん細胞が次々と膨張して破裂していくのだ。その様子を小川は「ぷちぷち割れる」と表現した。

>「そんなふうにがん細胞が割れるのはそれまで見たこともありませんでした。それに、がん細胞を光らせる実験中にがん細胞が死んじゃうっていうのは、少なくとも担当者の私は求めていない結果でしたし、どこで実験の手順を間違えたんだろうって、そればっかり考えていましたね」

>実験のエキスパートである小川が「それまで見たこともなかった」と首をひねるような現象だった。

>光永も困った顔でモニターを見つめるばかりだった。光永にとってもがん細胞が割れて死んでいくのは想定外だった。普通に考えれば、近赤外線を当てるだけでがん細胞が壊れるはずがない。光の出力は正常値。高出力でがん細胞を焼き殺しているわけではないのだ。

>そもそも実験に使う光として近赤外線が選ばれているのも、「細胞には影響を与えない安全な光」だったからだ。だが、何度繰り返しても結果は同じ。

>「やっぱりコイツの形が悪いんじゃないかなあ。このスルホ基が何かを邪魔してるんじゃないかと思うんですけど」

>小川が言ったのはIR700のことだ。

>「なんだか光り方も変ですよね……」

>このIR700には光永も朝から撮影のタイミングや露出の調整で苦労させられていた。

>すでに午後一番のラボ・ミーティングの時間が迫っていた。小川はミーティング直前、実験の様子を上司である小林に伝えた。

「今朝からIR700を試しているんですけど、うまくいかなくて……」
「うまくいかない?」
「何度やっても死んじゃうんですよ」
「……死ぬって、何が」
「がん細胞が、です」
「がん細胞が死ぬって……小川さん、それってどういうことや」

>小林は時折、生まれ故郷の西宮の話し言葉が出る。

>そそくさとミーティングを終え、小川が顕微鏡室でその現象を小林に見せた時だった。小林が大きな声でこう言った。

>「これはおもろいなあ!」
>食い入るようにモニターに見入っていた。

>「すごい、すごいで! これは治療に使えるんちゃうか!」

>光免疫療法が〝発見〟された瞬間だった。

>「がん細胞だけを殺す治療法が開発されつつある」と大統領が漏らした!?
その後、小川美香子から助手を引き継いだ光永眞人が実験を重ね、光永を第一著者、浜松医大に戻った小川を第二著者、小林久隆を最終著者とした論文「特定の膜分子を標的とするがん細胞を選択的に近赤外線によって破壊する治療法(Cancer Cell -Selective In Vivo Near Infrared Photoimmunotherapy Targeting Specific Membrane Molecules)」(2011年11月、『ネイチャー・メディシン』)が発表された。後に「光免疫療法(PIT:Photoimmuno-therapy)」、あるいは「近赤外線光免疫療法(NIR-PIT:Near Infrared Photoimmunotherapy)」とも呼ばれることになる治療法の最初の論文だ。

>当時のバラク・オバマ大統領が年頭の一般教書演説でこの治療法を「米国の研究成果」として取り上げたのは、論文発表からたった2ヶ月後のことだ。

>〈近赤外線でがん細胞を選択的に破壊する〉という前代未聞の治療法が、いかに医学界を超えたインパクトを与えたかがよくわかる。

>オバマは「技術革新(イノベーション)を起こすには基礎研究が必要だ」と述べた後、こう言った。

>「今日、連邦政府が支援する研究所や大学において、数々の発見がなされている。健康な細胞を傷つけることなく、がん細胞だけを殺す治療法が開発されつつあるのだ」

>おそらくは「注目すべき研究がないか」と大統領府からNIHに問い合わせがあるなり、「注目すべき研究があります」とNIHから報告がなされるなりしたのだろう。

>演説内で取り上げられることを事前に知らされていなかった小林は、その翌日、隣の研究室の同僚から知らされ、ホワイトハウスの公式サイトに行ってみると動画があった。

>「ほんの一瞬だったので〝あ、言ったな〟という感想以上のものは抱きませんでしたが、あの演説がひとつの契機になったのは事実ですね」

>「がん細胞だけを狙い、物理的に殺す」シンプルなメカニズム
実際、小林の研究生活はここから大きな変化を遂げていくことになる。光免疫療法は「第五のがん治療法」として注目を浴びる中、2020年9月に承認、12月に保険適用を果たすわけだが、まずは光免疫療法のざっくりとした仕組みはこうだ。

>小川が出・会った「奇妙な現象」のメカニズムは実にシンプルである。光免疫療法はがん細胞だけを狙い、物理的に、「壊す」のだ。がん細胞と特異的に結合したIR700が、近赤外線を当てられると化学反応を起こし、がん細胞を破壊する。これだけだ。

<注=「出・会」=「・」不要

>後の研究で詳しくわかったことでは、IR700は近赤外線を照射されると化学変化を起こして結合している抗体の形状を物理的に変化させる。その際、がん細胞に無数の穴を空け、穴から侵入した水ががん細胞を内部から破裂させるのだ。

>この「がん細胞だけを狙い、物理的に殺す」という点が光免疫療法の重要な特徴だ。この仕組みはのちに詳しく見ていくことにする。

>原理はシンプルだが、もちろんここには最先端の科学技術が詰まっている。

>どうやってがん細胞にだけIR700をくっつけるのか?
>なぜ近赤外線を使うのか?
>特定のがんにしか効かないのではないのか?
>そもそも、画像診断の研究をしていたはずの小林が、なぜ治療へと研究の舵を切ったのか?

>その根底には、小林のサイエンティストとしての、そして医師としての、深い知見と哲学が宿っているのだが、詳細を見る前に、なぜこのシンプルな光免疫療法が「ノーベル賞級」と言われ、がん治療の「第五の治療法」と呼ばれるほどに注目されたのかを見ておこう。

>「第五の」と言うくらいであるから、これまでに「第四」までが治療法として認められてきた。長らく「三大療法」とされてきたのが「外科療法(外科手術)」「放射線療法(放射線治療)」「化学療法(抗がん剤治療)」である。

>「第四の治療法」と呼ばれるのが本庶佑京都大学特別教授が開発に携わり、2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞したことで知られる「がん免疫療法」だ。

>文/芹澤健介

<本>
『がんの消滅:天才医師が挑む光免疫療法』 (新潮新書)
芹澤 健介 (著)、小林 久隆 (監修)


<参考=「『がんの消滅』#1 がん細胞がぷちぷち壊れていく…人類の希望「光免疫療法」発見の瞬間「がんを光らせる実験のはずがまさかの結末に」」(集英社)>
(23/09/27)
https://shueisha.online/culture/163386

Re: <がんの消滅>がん細胞がぷちぷち壊れていく/「光免疫療法」発見の瞬間 - シバケン

2023/09/29 (Fri) 00:07:12

<副題=『がんの消滅』#2 人間とがんとの戦いに終止符をうてるか…「がん細胞だけを狙って殺す」希望の光免疫療法とは? そのメリットとは?(集英社)>


>日本人の死因1位は1981年から変わらずがん(悪性新生物)だ。2021年の厚生労働省の統計によると、死因1位のがんの26.5%は、2位の「高血圧性を除く心疾患」の14.9%を大きく引き離す。日本人は2人に1人ががんになり、4人に1人はがんで死ぬ時代、「9割のがんに効く」と言われる「光免疫療法」は従来と治療法とは何が違うのだろうか。『がんの消滅:天才医師が挑む光免疫療法』 (芹澤健介[著]/小林久隆[医療監修]、新潮新書)より、一部抜粋、再構成してお届けする。


>標準治療
>がん治療ではしばしば「標準治療」という言葉を耳にする。私たちが「がん」と診断された時、まず最初の選択肢として示されるのがこの標準治療だ。

>国立がん研究センターの公式サイトによれば「科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療」とされている。

>誤解が多いが、厚生労働省の承認を得、公的医療保険、いわゆる健康保険が適用されただけでは「標準治療」と呼べない。この後、さらに充分な科学的データを積み重ね、その分野の医師たちが学会で検討、作成した「診療ガイドライン」に掲載されたものが「標準治療」となる。光免疫療法はこの途上にある。


>一方に「先進医療」という言葉もある。

>こちらは、やはり国立がん研究センターによれば「医療技術ごとに、実施者、治療対象、治療法とその実績、医療安全など、厚労省の基準を満たし、かつ、実施承認を受けた医療機関でのみ行われる医療」のことだ。厚生労働省の承認を得て、診察・入院・検査代は保険適用となるが、医療技術料は全額自己負担となる。


>これらと一線を画すのが「自由診療」だ。

>身近なものでは健康診断やワクチンの予防接種、歯医者さんで銀歯でなく新素材を使う場合などがそうだが、日本未承認の抗がん剤や治療法を扱うクリニックで行う診療もこれに当たる。公的医療保険の適用とならないので、診察・入院・検査代も全額自己負担となる。

>現代の私たちはインフォームド・コンセントが義務化された時代を生きている。インフォームド・コンセントとは、治療に当たって医師の充分な説明と患者の同意が必要とされるプロセスのことで、患者の自己決定権を保障するものだ。

>医療法によりその義務が明文化されている。そんなの当たり前でしょと思うかもしれないが、導入以前は医療は患者のものというより医師のもの、治療方針は医師が決定するものだった。

>逆に言えば現代は、患者が自分でどの治療を選ぶのか決めなければならない。「標準治療」で行くのか、その途上にある光免疫療法を選ぶ手もあるのかもしれないし、「先進医療」の可能性や「自由診療」に賭ける人もいるかもしれない。


>がん治療は複雑だ。

>がんの種類は多様、がんが発生する臓器によって治療法も違えば、生存率も異なる。患者の体質も一様でなければ、どこの病院でもまったく同一の治療やサポートが受けられるわけでもない。その人にだけ効くがん治療法というのもあるのかもしれない。

>いずれにせよ私たちはがんと診断されて初めて、自分のがんにはどんな治療法が最適なのか、どこの病院を選べばいいのか、そうした膨大な情報が溢れる現実に直面する。

>選択するのは自分だ。自ら調べねばならず、かといって無限に情報収集を続けていられるほど時間的余裕があるわけでもない。「名医」を扱う書籍や雑誌、テレビ番組が多数存在するのはそうした理由からだろうし、困り果てて怪しげな民間療法や口コミに頼りたくなってしまうのも無理はないのかもしれない。

>その際、判断のひとつの材料になるのは保険診療か自由診療かだ。

>保険診療と認められるためのハードルは高い。自由診療とは異なり、国の承認を得なければならないからだ。日本の大多数の医師や医療スタッフが日々研鑽する主戦場はここであり、この舞台に上がっているかどうかがその治療法の信頼度も左右する面があることは否めない。中でも「標準治療」と認められるには長い歳月が必要とされることも記しておかねばならない。

>こんなことをあらかじめ書いたのは、本書刊行の2023年時点では、光免疫療法を名乗る自由診療のクリニックがあまりに多いからだ。本書で扱う光免疫療法は保険診療でしか受けられない。「第五の治療法」と注目されるのもそのためである。その点に留意して読み進めていただきたい。


>「外科療法(外科手術)」のメリット&デメリット
>では標準治療における従来の「三大療法」と光免疫療法の何が大きな違いなのかを見ていこう。


>それぞれの治療法にメリットとデメリットがある。

>「外科療法(外科手術)」は、がん細胞を完全に切除できれば体内からがんを消すことができ、「最も直接的かつ根治の可能性が高い」と言われる。

>その一方で、当然のことながら、正常細胞も傷つける。どんな天才外科医でも、細胞レベルで選り分けて、がん細胞だけを取り除くことは不可能だ。

>大腸がんや早期の胃がんなどで内視鏡や腹腔鏡を使うなど患者の負担が少なく済む手術もあるが、開腹手術や開頭手術となると術後の負担も大きい。臓器や体の部位を温存できないことももちろんありうる。

>がんは成長すると原発巣、つまり元の発生場所から周囲の組織に浸潤したり、血液やリンパ液の流れに乗ってほかの臓器やリンパ節に転移する。そのため原発の腫瘍を切除するだけでなく、転移の可能性がある箇所も取り除く必要が出てくる。

>これを「郭清(かくせい)」と言うが、がん細胞の取りこぼしがないよう、マージンを大きく取っておくのが一般的だ。がんの進行により、切除箇所を広げる術式を「拡大手術」と言うが、80年代に医師となった小林によると、「腹腔鏡手術が普及する90年代までは、身体の中がほとんど空っぽになるような拡大手術を受けた患者も少なくない」とのことだ。


>「放射線療法(放射線治療)」のメリット&デメリット
>「放射線療法(放射線治療)」は放射線(高エネルギーX線、電子線、陽子線、重粒子線、α線、β線、γ線など)でがん細胞のDNAを傷つけて死滅させる治療法だ。体を切らずに治療できる。治療中の痛みもなく、体への負担が比較的少ない、外科手術が難しい場所にあるがんでも有効、などといった利点がある。

>とはいえがん細胞を殺すほどの放射線を照射するので、がん細胞の周囲の正常細胞もダメージを受ける。

>近年ではよりピンポイントに照射ができるようになったが、それでもがん細胞だけに照射するのは不可能だ。照射によって患部周辺の幹細胞が死滅してしまえば、がん細胞が死滅した後も組織を再生させることができず、いわば「焼け野原」のような状態が残ってしまう。

>また、放射線感受性が高い免疫細胞などはほぼ死滅することになり、免疫機能は低下せざるを得ない。全身のだるさや吐き気といった副作用を伴うことも多い。同じ場所に再発した場合は、初発の際に照射した放射線量を考慮すると、定められた耐容線量を超えてしまうため再び放射線治療を受けられないことがほとんどだ。


>「化学療法(抗がん剤治療)」メリット&デメリット
>「化学療法(抗がん剤治療)」は、外科手術では治療できない血液やリンパのがんも治療できる、体内に広く分布するがんに対応できる全身療法である、といったメリットがある。がんの増殖を抑えたり、転移や再発を防ぐ効果もあるとされる。

>だが、抗がん剤の作用はがん細胞にだけ及ぼされるわけではない。正常細胞にも働いてしまう(分子標的薬を用いたがん薬物療法は後述する)。副作用をゼロにすることも困難だ。代表的なものだけでも吐き気、脱毛、倦怠感、頭痛、めまい、発熱、悪寒、発汗、疼痛、しびれ、麻痺、患部の腫れ、むくみ、咳、口内炎、食欲不振、高血圧、血尿、頻尿、下痢、皮膚障害などなど。

>抗がん剤の祖は毒ガスと言われる。事実、日本初の抗がん剤「ナイトロミン」は第一次世界大戦の際にドイツ軍が使用したマスタード・ガス(イペリット)を起源としている。「毒をもって毒を制す」とでも言えばよいのだろうか、抗がん剤はその強い毒性でがんを攻撃する。その毒が正常細胞に影響すれば、「がんを叩く」という主作用以外の作用が起きてしまうのもいわば当然だろう。

>また、がん細胞に抗がん剤に対する耐性がついてしまうことがある。その場合、その抗がん剤はもう使えなくなる。数週間で耐性ができることもあり、再発しても使えない。

>原因の多くは、がんが変異することにある。がん細胞は正常細胞の100~1000倍の頻度で遺伝子に変異を蓄積していく。結果的に、過酷な環境を生き抜いたがん細胞だけが増えていき、投与できる抗がん剤の選択肢も減っていく。


>「がん免疫療法」のメリット&デメリット
>「第四の治療法」とも言われる「がん免疫療法」にも触れておこう。

>がん免疫療法とは「患者の免疫力を高めてがん細胞への攻撃力を強化する治療法」だ。

>標準治療でも、免疫細胞が作るインターフェロンやインターロイキンといったタンパク質を投与して免疫細胞を活性化する治療法を「サイトカイン療法」と呼んだり、膀胱がん治療に使われる「BCG膀胱内注入療法」を「膀胱がん免疫療法」と呼んだりして、がん免疫療法の一種とする場合もあるのでややこしいが、国立がん研究センターの区分では、現在、保険適用となっているがん免疫療法は次の2つだ。

>「免疫チェックポイント阻害薬」を使うものと「エフェクターT細胞療法」(キメラ抗原受容体=CARの遺伝子を用いるCAR-T療法)である(ネットで検索すると大量に出てくるこれ以外の「○○免疫療法」は保険外診療、つまり自由診療なのでご注意を)。前者はがん薬物療法の一種とも言える。

>「免疫チェックポイント阻害薬」はがん細胞を攻撃する免疫細胞のいわばブレーキを外し、CAR-T療法はその数を増やす。いずれにせよ「免疫の力を強める」治療法だ。

>まだ治療の対象となるがんは限られており、免疫チェックポイント阻害薬を使えるがん種でも効果が出るのは2割ほどというのが現状だ。

>どちらも免疫細胞ががん以外の場所でも活性化しすぎることで重症化したり死亡したりするといった重篤な副作用の例も報告されている。患者自身の免疫細胞の性質に左右される面もあり、まだまだ発展の途上にあると言っていいだろう。


>「がんの消滅」
>では光免疫療法のメリットとはなんだろうか。

>まずオバマの言葉を借りれば、光免疫療法は「がん細胞だけを殺す」ことだ。従来の三大療法はどうしても正常細胞を傷つけてしまう。

>どんな天才外科医でもがん細胞だけを摘出するのは不可能だ。どれだけピンポイントに放射線を当てようと、がん細胞の周囲の正常細胞も傷ついてしまう。抗がん剤治療は、ざっくり言えば「毒」をもってがんを制する治療法だ。がんだけでなく正常細胞にも「毒」の影響が出てしまう。

>がん免疫療法はがん細胞を直接殺すわけではない。がん細胞を殺す免疫細胞を活性化するものだ。

>光免疫療法は、近赤外線照射のスイッチを押せば、がん細胞だけが狙われ、選択的に壊される。

>次に、これは「がん細胞だけを殺す」ことと同義とも言えるが、「体への負担が少ない」点がメリットだ。つまり、何度でも治療することができる。

>医学的には「低侵襲」という言い方をするが、人体には安全な薬剤を体内に注入し、安全な光を照射し、がん細胞が選択的に殺せるなら、体への負担はないはずだ。しかも、治療後には正常細胞が残る。がんがあった場所は元のきれいな状態に戻るに違いない。

>それに対して、外科手術を行って切除した臓器や組織が戻ってくることはないし、切開したところは傷痕として残るかもしれない。放射線治療は当てられる線量が決まっており、放射線を浴びた通常の組織は元に戻らないことがある。抗がん剤治療の場合、がん細胞に耐性ができる場合があり、これも投与できる上限が決まっている。


>最後に、「汎用性の高さ」だ。

>本章の冒頭で、「がん細胞の表面には他の正常細胞にはないタンパク質が多数、分布している。がん細胞を移植されたマウスの体組織内に、このタンパク質とだけ(特異的に)結合する物質を送り込んでやれば、がん細胞にだけその物質がくっつくことになる」と述べた。

>この〈物質〉は免疫学では「抗体」と呼ばれる。後に触れるが、光免疫療法は抗体医薬の原理でがんだけを攻撃する。

>この抗体が特異的に結合するタンパク質(免疫学では「抗原」)は、一般には「腫瘍マーカー」として知られている。がんの種類によって作られるタンパク質が異なるため、がんの診断の際に利用されている。

>EGFRというタンパク質は、多くのがんに発現する。頭頸部がん、皮膚がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、胃がん、すい臓がん、胆管がん、大腸がん、子宮がん、膀胱がんなどだ。
HER2(ハーツー)というタンパク質は、乳がんや胃がん、すい臓がん、胆管がん、膀胱がんなどで発現が見られる。

>こうしたタンパク質(抗原)はすべてのがん患者で同様に発現するわけではないのが難しいところだが、この抗原に合わせて抗体を変えてやれば、がんの種類ごとに抗体がIR700をがん細胞のもとに運んでくれ、がんを殺すことができる。原理的には、9割のがんをカバーできるのだ。

>つまり光免疫療法は「がん細胞だけを狙って殺す」「何度でも治療できる」「9割のがんをカバーする」ということになる。

>光免疫療法が広く実用化されたら、そんな未来が待っているのだ。

>がん検診でがんと診断されたとする。自分のがんが光免疫療法のカバーする9割のがんだということがわかり、光免疫療法での治療を選択したとする。

>私たちはまず病院に行き、IR700を含む薬剤を点滴される。薬が患部に充分に行き渡る時間が必要だが、その間はただ待っていればいい。その上で医師の元に行き、患部に近赤外線を照射してもらう。強い光で細胞を焼くわけではないのに、がん細胞は照射の瞬間から壊れ始める。3センチ程度のがんであれば4~5分の照射で施術は終わるだろう。その後は体内に残った薬剤と壊れたがん細胞の排出を待つだけだ。

>さらに普及が進めば、私たちはがん検診すら必要なくなるかもしれない。定期的に病院に行って薬剤を飲み、近赤外線の照射を受けておけば微小なうちにがんを退治できる。

>そんな未来が来たならば、それは私たちががんという病から解放されることを意味しないだろうか。


>かつて結核は「死の病」だった。

>だが医学の進歩はその恐怖の記憶を遥かな過去に追いやった。

>がんはどうだろう。

>光免疫療法は実際にがん細胞を殺し、消滅させるだけでなく、私たちの「がんの記憶」さえ消すかもしれないのだ。それは「がんの消滅」と言ってもいいのではないか。

>文/芹澤健介 写真/shutterstock

<参考=「『がんの消滅』#2 人間とがんとの戦いに終止符をうてるか…「がん細胞だけを狙って殺す」希望の光免疫療法とは? そのメリットとは?」(集英社)>
(23/09/27)
https://shueisha.online/culture/163424

Re: <がんの消滅>がん細胞がぷちぷち壊れていく/「光免疫療法」発見の瞬間 - パソコン大魔神

2023/09/29 (Fri) 00:13:10

 ガン細胞は42℃で簡単に死滅することは、すでに判っています。問題はガン細胞を42℃に加熱する方法で、前立腺がんなどに使われる「放射線治療」や「重粒子線治療」が知られています。しかし、どちらも周辺の正常細胞のDNAにダメージを与え、新たなガン細胞を生む危険が有りました。
 
 ガン治療として歴史的に知られているのは「温泉療法」で、特に”有馬温泉”の”金泉”は地中深くのマントル層から運ばれて来た”酸化鉄”と”海水由来の塩”の混合物である泥状物質と高濃度の二酸化炭素で”比熱”が高く、豊臣秀吉の正妻”ねね”のガン治療に効果を発揮したのは有名な話です。
 
 その他、紀伊半島の”川湯温泉”や”竜神温泉”も地中深くのマントル層から染み出した温泉です。湯温が低いので加熱する必要が有りますが亀岡の”湯の花温泉”も同様の泉質です。
 
 「直腸がん」が発覚したパソコン大魔神ですが、この「光免疫療法」に注目していて、数年前にガンで亡くなった”田中治夫”師匠が開発した半導体レーザーが偶然にもIR700の波長の近赤外線で発光します。これを内視鏡のファイバー・スコープを利用して照射すればガン細胞を死滅させる事が可能だと考えていました。
 
 早速、「パソコン大魔神」本人を実験台として画期的治療法を「オリンパス」と共同開発します。
 

Re: <がんの消滅>がん細胞がぷちぷち壊れていく/「光免疫療法」発見の瞬間 - シバケン

2023/10/21 (Sat) 17:06:02

<副題=5分の照射でがんが消滅する…三木谷浩史が「おもしろくねえほど簡単だな」と唸った光免疫療法の新しさ 日本人医師が偶然発見した奇跡の治療法(PRESIDENT)>

前回の記事と、出典の本は一緒。


>理論上、9割のがんに効くとされる「光免疫療法」が注目を集めている。「夢の治療法」はどこが新しいのか。開発者で、アメリカ国立がん研究所(NCI)主任研究員の小林久隆さんに取材した芹澤健介さんの著書『がんの消滅 天才医師が挑む光免疫療法』(医学監修:小林久隆、新潮新書)より紹介する――。(第1回)


>革命的と言われる治療法の開発者は日本人
>9割のがんに効く治療法がある。

>そう聞いたらどう思われるだろうか。

>光免疫療法。

>そんな夢みたいな、と思われるかもしれないが、日本ではすでに実用化されている。2020年9月、厚生労働省から正式に承認を受け、楽天メディカルが普及に尽力中だ。

>2011年に論文が発表されるやそのインパクトは医学界を超えて広がり、論文段階にもかかわらず、わずか2カ月後に時のアメリカ合衆国大統領バラク・オバマは年頭の一般教書演説で取り上げた。論文発表から10年も経たない異例の早さで日本は世界に先駆けて承認した。

>この「革命的」とも「ノーベル賞級」とも言われる治療法の開発者は、小林久隆という日本人医師だ。渡米二十余年、全米最大・最古の医学研究機関、米国国立衛生研究所(NIH)で終身の主任研究員を務める。

>天才と呼ばれる。

>新聞も雑誌も「情熱大陸」も「ガイアの夜明け」も小林を取り上げた。一見、どこにでもいる普通の日本人の「おじさん」だ。酒をたしなみ、ともすれば関西弁のダジャレが口を衝き、アイドル好きでカラオケも歌う。関西人らしく、「人前に出たら一回は笑いをとりたい」とも口にする。

>だが小林が開発した光免疫療法の原理は素人でも理解できるくらいシンプルで、安全で、鮮やかだ。楽天グループCEO三木谷浩史はこう言った。

>「おもしろくねえほど簡単だな」

>がん細胞だけを狙う「光免疫療法」とは
>光免疫療法は「第五のがん治療法」として注目を浴びる中、2020年9月に承認、12月に保険適用を果たすわけだが、まずは光免疫療法のざっくりとした仕組みはこうだ。

>小川が出・会った「奇妙な現象」のメカニズムは実にシンプルである。光免疫療法はがん細胞だけを狙い、物理的に、「壊す」のだ。がん細胞と特異的に結合したIR700(光感受性物質)が、近赤外線を当てられると化学反応を起こし、がん細胞を破壊する。これだけだ。

<注=「出・会った」=「・」不要。

>後の研究で詳しくわかったことでは、IR700は近赤外線を照射されると化学変化を起こして結合している抗体の形状を物理的に変化させる。その際、がん細胞に無数の穴を空け、穴から侵入した水ががん細胞を内部から破裂させるのだ。

>この「がん細胞だけを狙い、物理的に殺す」という点が光免疫療法の重要な特徴だ。この仕組みはのちに詳しく見ていくことにする。

>原理はシンプルだが、もちろんここには最先端の科学技術が詰まっている。

>どうやってがん細胞にだけIR700をくっつけるのか? なぜ近赤外線を使うのか? 特定のがんにしか効かないのではないのか? そもそも、画像診断の研究をしていたはずの小林が、なぜ治療へと研究の舵を切ったのか?


>これまでの治療法との違い
>その根底には、小林のサイエンティストとしての、そして医師としての、深い知見と哲学が宿っているのだが、詳細を見る前に、なぜこのシンプルな光免疫療法が「ノーベル賞級」と言われ、がん治療の「第五の治療法」と呼ばれるほどに注目されたのかを見ておこう。

>「第五の」と言うくらいであるから、これまでに「第四」までが治療法として認められてきた。長らく「三大療法」とされてきたのが「外科療法(外科手術)」「放射線療法(放射線治療)」「化学療法(抗がん剤治療)」である。「第四の治療法」と呼ばれるのが本庶佑京都大学特別教授が開発に携わり、2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞したことで知られる「がん免疫療法」だ。


>これらの治療法とどこが違うのか。

>他の細胞が傷付く
>標準治療における従来の「三大療法」と免疫療法の何が大きな違いなのかを見ていこう。

>それぞれの治療法にメリットとデメリットがある。

>「外科療法(外科手術)」は、がん細胞を完全に切除できれば体内からがんを消すことができ、「最も直接的かつ根治の可能性が高い」と言われる。

>その一方で、当然のことながら、正常細胞も傷つける。どんな天才外科医でも、細胞レベルで選り分けて、がん細胞だけを取り除くことは不可能だ。大腸がんや早期の胃がんなどで内視鏡や腹腔ふくくう鏡を使うなど患者の負担が少なく済む手術もあるが、開腹手術や開頭手術となると術後の負担も大きい。臓器や体の部位を温存できないことももちろんありうる。

>がんは成長すると原発巣、つまり元の発生場所から周囲の組織に浸潤したり、血液やリンパ液の流れに乗ってほかの臓器やリンパ節に転移する。そのため原発の腫瘍を切除するだけでなく、転移の可能性がある箇所も取り除く必要が出てくる。これを「郭清かくせい」と言うが、がん細胞の取りこぼしがないよう、マージンを大きく取っておくのが一般的だ。

>がんの進行により、切除箇所を広げる術式を「拡大手術」と言うが、80年代に医師となった小林によると、「腹腔鏡手術が普及する90年代までは、身体の中がほとんど空っぽになるような拡大手術を受けた患者も少なくない」とのことだ。


>放射線治療のリスク
>「放射線療法(放射線治療)」は放射線(高エネルギーX線、電子線、陽子線、重粒子線、α線、β線、γ線など)でがん細胞のDNAを傷つけて死滅させる治療法だ。体を切らずに治療できる。治療中の痛みもなく、体への負担が比較的少ない、外科手術が難しい場所にあるがんでも有効、などといった利点がある。

>とはいえがん細胞を殺すほどの放射線を照射するので、がん細胞の周囲の正常細胞もダメージを受ける。近年ではよりピンポイントに照射ができるようになったが、それでもがん細胞だけに照射するのは不可能だ。

>照射によって患部周辺の幹細胞が死滅してしまえば、がん細胞が死滅した後も組織を再生させることができず、いわば「焼け野原」のような状態が残ってしまう。

>また、放射線感受性が高い免疫細胞などはほぼ死滅することになり、免疫機能は低下せざるを得ない。全身のだるさや吐き気といった副作用を伴うことも多い。同じ場所に再発した場合は、初発の際に照射した放射線量を考慮すると、定められた耐容線量を超えてしまうため再び放射線治療を受けられないことがほとんどだ。


>抗がん剤の副作用
>「化学療法(抗がん剤治療)」は、外科手術では治療できない血液やリンパのがんも治療できる、体内に広く分布するがんに対応できる全身療法である、といったメリットがある。がんの増殖を抑えたり、転移や再発を防ぐ効果もあるとされる。

>だが、抗がん剤の作用はがん細胞にだけ及ぼされるわけではない。正常細胞にも働いてしまう(分子標的薬を用いたがん薬物療法は後述する)。副作用をゼロにすることも困難だ。代表的なものだけでも吐き気、脱毛、倦怠けんたい感、頭痛、めまい、発熱、悪寒、発汗、疼痛とうつう、しびれ、麻痺、患部の腫れ、むくみ、咳、口内炎、食欲不振、高血圧、血尿、頻尿、下痢、皮膚障害などなど。

>抗がん剤の祖は毒ガスと言われる。事実、日本初の抗がん剤「ナイトロミン」は第一次世界大戦の際にドイツ軍が使用したマスタード・ガス(イペリット)を起源としている。「毒をもって毒を制す」とでも言えばよいのだろうか、抗がん剤はその強い毒性でがんを攻撃する。その毒が正常細胞に影響すれば、「がんを叩く」という主作用以外の作用が起きてしまうのもいわば当然だろう。


>がん免疫療法との違い
>また、がん細胞に抗がん剤に対する耐性がついてしまうことがある。その場合、その抗がん剤はもう使えなくなる。数週間で耐性ができることもあり、再発しても使えない。

>原因の多くは、がんが変異することにある。がん細胞は正常細胞の100~1000倍の頻度で遺伝子に変異を蓄積していく。結果的に、過酷な環境を生き抜いたがん細胞だけが増えていき、投与できる抗がん剤の選択肢も減っていく。

>「第四の治療法」とも言われる「がん免疫療法」にも触れておこう。

>がん免疫療法とは「患者の免疫力を高めてがん細胞への攻撃力を強化する治療法」だ。

>標準治療でも、免疫細胞が作るインターフェロンやインターロイキンといったタンパク質を投与して免疫細胞を活性化する治療法を「サイトカイン療法」と呼んだり、膀胱ぼうこうがん治療に使われる「BCG膀胱内注入療法」を「膀胱がん免疫療法」と呼んだりして、がん免疫療法の一種とする場合もあるのでややこしいが、国立がん研究センターの区分では、現在、保険適用となっているがん免疫療法は次の2つだ。


>「がん免疫療法」はまだ発展途上
>「免疫チェックポイント阻害薬」を使うものと「エフェクターT細胞療法」(キメラ抗原受容体=CARの遺伝子を用いるCAR-T療法)である(ネットで検索すると大量に出てくるこれ以外の「○○免疫療法」は保険外診療、つまり自由診療なのでご注意を)。前者はがん薬物療法の一種とも言える。

>「免疫チェックポイント阻害薬」はがん細胞を攻撃する免疫細胞のいわばブレーキを外し、CAR-T療法はその数を増やす。いずれにせよ「免疫の力を強める」治療法だ。まだ治療の対象となるがんは限られており、免疫チェックポイント阻害薬を使えるがん種でも効果が出るのは2割ほどというのが現状だ。

>どちらも免疫細胞ががん以外の場所でも活性化しすぎることで重症化したり死亡したりするといった重篤な副作用の例も報告されている。患者自身の免疫細胞の性質に左右される面もあり、まだまだ発展の途上にあると言っていいだろう。


>光免疫療法は「がん細胞だけ」を狙える
>では光免疫療法のメリットとはなんだろうか。

>まずオバマの言葉を借りれば、光免疫療法は「がん細胞だけを殺す」ことだ。

>従来の三大療法はどうしても正常細胞を傷つけてしまう。

>どんな天才外科医でもがん細胞だけを摘出するのは不可能だ。どれだけピンポイントに放射線を当てようと、がん細胞の周囲の正常細胞も傷ついてしまう。抗がん剤治療は、ざっくり言えば「毒」をもってがんを制する治療法だ。がんだけでなく正常細胞にも「毒」の影響が出てしまう。

>がん免疫療法はがん細胞を直接殺すわけではない。がん細胞を殺す免疫細胞を活性化するものだ。

>光免疫療法は、近赤外線照射のスイッチを押せば、がん細胞だけが狙われ、選択的に壊される。


>何度でも治療ができる
>次に、これは「がん細胞だけを殺す」ことと同義とも言えるが、「体への負担が少ない」点がメリットだ。つまり、何度でも治療することができる。

>医学的には「低侵襲」という言い方をするが、人体には安全な薬剤を体内に注入し、安全な光を照射し、がん細胞が選択的に殺せるなら、体への負担はないはずだ。しかも、治療後には正常細胞が残る。がんがあった場所は元のきれいな状態に戻るに違いない。

>それに対して、外科手術を行って切除した臓器や組織が戻ってくることはないし、切開したところは傷痕として残るかもしれない。放射線治療は当てられる線量が決まっており、放射線を浴びた通常の組織は元に戻らないことがある。抗がん剤治療の場合、がん細胞に耐性ができる場合があり、これも投与できる上限が決まっている。


>最後に、「汎用はんよう性の高さ」だ。

>本章の冒頭で、「がん細胞の表面には他の正常細胞にはないタンパク質が多数、分布している。がん細胞を移植されたマウスの体組織内に、このタンパク質とだけ(特異的に)結合する物質を送り込んでやれば、がん細胞にだけその物質がくっつくことになる」と述べた。この〈物質〉は免疫学では「抗体」と呼ばれる。後に触れるが、光免疫療法は抗体医薬の原理でがんだけを攻撃する。


>原理的には9割のがんをカバーできる
>この抗体が特異的に結合するタンパク質(免疫学では「抗原」)は、一般には「腫瘍マーカー」として知られている。がんの種類によって作られるタンパク質が異なるため、がんの診断の際に利用されている。

>EGFRというタンパク質は、多くのがんに発現する。頭頸部けいぶがん、皮膚がん、卵巣がん、乳がん、肺がん、胃がん、すい臓がん、胆管がん、大腸がん、子宮がん、膀胱がんなどだ。

>HER2(ハーツー)というタンパク質は、乳がんや胃がん、すい臓がん、胆管がん、膀胱がんなどで発現が見られる。

>こうしたタンパク質(抗原)はすべてのがん患者で同様に発現するわけではないのが難しいところだが、この抗原に合わせて抗体を変えてやれば、がんの種類ごとに抗体がIR700をがん細胞のもとに運んでくれ、がんを殺すことができる。原理的には、9割のがんをカバーできるのだ。


>4~5分の照射で施術は終わり
>つまり光免疫療法は「がん細胞だけを狙って殺す」「何度でも治療できる」「9割のがんをカバーする」ということになる。


>光免疫療法が広く実用化されたら、そんな未来が待っているのだ。

>がん検診でがんと診断されたとする。自分のがんが光免疫療法のカバーする9割のがんだということがわかり、光免疫療法での治療を選択したとする。

>私たちはまず病院に行き、IR700を含む薬剤を点滴される。薬が患部に充分に行き渡る時間が必要だが、その間はただ待っていればいい。その上で医師の元に行き、患部に近赤外線を照射してもらう。強い光で細胞を焼くわけではないのに、がん細胞は照射の瞬間から壊れ始める。3センチ程度のがんであれば4~5分の照射で施術は終わるだろう。その後は体内に残った薬剤と壊れたがん細胞の排出を待つだけだ。

>さらに普及が進めば、私たちはがん検診すら必要なくなるかもしれない。定期的に病院に行って薬剤を飲み、近赤外線の照射を受けておけば微小なうちにがんを退治できる。


>そんな未来が来たならば、それは私たちががんという病から解放されることを意味しないだろうか。


>かつて結核は「死の病」だった。

>だが医学の進歩はその恐怖の記憶を遥かな過去に追いやった。

>がんはどうだろう。

>光免疫療法は実際にがん細胞を殺し、消滅させるだけでなく、私たちの「がんの記憶」さえ消すかもしれないのだ。それは「がんの消滅」と言ってもいいのではないか。

>芹澤 健介(せりざわ・けんすけ)
ライター、編集者、構成作家、映像ディレクター
1973(昭和48)年、沖縄県生まれ。横浜国立大学経済学部卒。著書に『コンビニ外国人』など、共著に『本の時間を届けます』など。

>小林 久隆(こばやし・ひさたか)
米国国立衛生研究所(NIH)主任研究員
1961(昭和36)年生まれ。京都大学大学院医学研究科修了。医学博士。光免疫療法の開発者。

<参考=「5分の照射でがんが消滅する…三木谷浩史が「おもしろくねえほど簡単だな」と唸った光免疫療法の新しさ 日本人医師が偶然発見した奇跡の治療法」(PRESIDENT)>
(23/10/17)
https://president.jp/articles/-/74483

Re: <がんの消滅>がん細胞がぷちぷち壊れていく/「光免疫療法」発見の瞬間 - 打悪法師

2023/10/24 (Tue) 00:30:25

 シバケンさん、有用情報を採り上げながら、次々と雑多情報をも扱いますが、自身本当に読んでいますか。
 これの第1報に応じた私の投稿は、その後の物と大体に同内容で、的確で冗長性の少ないない物でした。それは私自身の独自評価でしたが。情報の価値や意義を、自身で評価していますか。表題のみでなく中身を読んでいますか。それが苦手な私はスイスイできる人には敬服ですが、何だか不満足なのですよ。重みが。

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